鉄道ができて廃れた地域

 2018.01.18 Thursday 

秋田の由利高原鉄道の春田社長さんがよく「鉄道がなくなったら地域は廃れます。地図から自分たちの街の駅が消えるのですから。」と言われます。

 

確かにその通りで、まして、私たちのように国鉄のローカル線が次々に廃止されるのを経験して、その後、その地域がどうなって行ったかを目の当たりにしてきた世代は他人事ではありませんから、春田社長も私も、いや、公募社長の皆さんは、何とか今あるローカル線を活用する方法というのを考えて、地域が少しでも盛り上がるのではないかと、その可能性にチャレンジしているのです。

 

例えば私の大好物の液体燃料を生産する薩摩大口とか宮之城と聞いても、どこだか探せと言われてもなかなか難しいかもしれません。

上山田とか室木と言われてもピンとこないでしょう。

昔、御手洗という名前の駅がありまして、駅に大きく「御手洗」という名前が書いてある。

もちろん読み方は「みたらい」で、「おてあらい」とは読みませんが、駅に御手洗と書いてあるもんだから、そこでおしっこをする人も出てくるのではないか、などとよく言われていましたが、では、その駅の本当の御手洗にはなんて書いてあるのか、という話になって、どうなっているんだろうと雑誌の取材で記者が見に行ったんです。そうしたら御手洗駅のすぐ横にある小さな御手洗には「便所」と書いてありまして、「これではまちがいようがありませんね。」などという笑い話になりましたが、その駅も線路が廃止されて跡形もなく消え去りましたから、今の人たちはどこにあったのかもわからない。つまり、忘れ去られるのです。

鉄道があれば時刻表の地図に載っているし、今の時代はテレビも雑誌もやってきますからいろいろ使いようがある。

だから、鉄道を大切にしましょうよというのが、我々の主張なのであります。

 

ただ、私はいろいろな角度から物事を見る必要があると考えていますから、ときどき、鉄道があると本当に便利なのだろうか、と考えるのです。

 

例えば新幹線。

新幹線ができれば便利になって沿線が栄える。

これはお題目のように言われていることですが、本当にそうなのだろうか。

確かに便利にはなるけれど、では地元が栄えるかというと疑問が残ります。

例えば新幹線が長野まで伸びたとき。確かにそれまでは信越本線の横軽をえっちらと越えて4時間近くかかっていた東京ー長野間が1時間半で行かれるようになりましたが、長野が1時間半になると、どういうことが起きたかというと、つまり日帰り出張圏内になったわけですから、駅前のホテルがいくつも閉館するようなことが起きました。それまで「支店」だった会社の拠点が「営業所」に格下げされるようなこともおきました。だって、東京から十分コントロールできる距離になったのですから、支店として独立させている必要がなくなったのですから。

「ストロー現象」などと呼ばれる言葉が言われ始めたのもこの頃で、つまりはストローのようにみんな東京に吸い上げられてしまうようなことが発生し始めたのです。

便利になったがゆえに、廃れはじめたのです。

 

もちろん、長野県の人たちはみなさん優秀ですから、すぐにそういうことに気づいて、対抗策を講じていますから、今では長野駅前にも新しいホテルがいくつも建つようになりましたが、それでも、今までのような商売のやり方をしていたのでは生きて行かれないということは実際に発生したのです。

 

鉄道が日本に開通したのは明治5年、1872年ですから、今からかれこれ150年近く前になりますが、それから約40年間、明治時代というのは日本全国が鉄道ブームだったことと思います。「我田引鉄」などという言葉がつい最近まであったような気がしますが、田舎の人たちは自分たちの所へも鉄道を引きたいと、いろいろ策を練ったことが記録に残されています。

ただし、新しく鉄道が開通すると、今まで順調にやってきた地域の商売が廃れて行きました。

例えば、馬車や牛車で荷物を運ぶ仕事や、旅人達が宿泊していた旅館業などは、鉄道が開通すれば仕事がなくなります。

私の地元の千葉県で言えば、佐原や流山といったそれまで水運から陸運に積み替えるような物資の集散地は、鉄道ができればそんなことは必要がなくなりますから、徐々に賑わいがなくなって行きました。

先日初詣に成田山へ行きましたが、成田山の参道わきには今でも木造の旅館が残されています。今では食堂として営業していますが、成田山は1000年以上の歴史があって、1000年以上前から善男善女がお参りに来ていたのですが、鉄道ができたなんてのはわずか100年ちょっと前の話です。でも、その鉄道ができたがために、成田山にお詣りをして、成田で宿泊をする人はいなくなりました。

私の祖父は明治の人ですが、その昔は成田山へお参りに行くためには歩いて行ったという話を聞きました。東京から成田まで歩いていくためには当然途中で宿泊するでしょう。成田街道沿いの船橋や佐倉と行ったところは、旅館に皆さん宿泊して賑わったところだと思います。でも、鉄道ができて便利になって、みんな素通りするようになったことで、それまでの商売の形が、そのままでは立ちいかなくなったのです。

それはまさしく、鉄道ができたがために、今までの町の在り方が変わってしまったということでしょう。そして、こういうことが、新幹線や高速道路が開通すると、今でも起きているのです。

 

いすみ鉄道が走る千葉県の房総半島はどうでしょうか。

半島というところは、「半島経済」とか「半島法」と言われるように、実に不利なところです。

なぜなら交通として袋小路ですから。行き止まりなんです。そして、そういうところに文化や文明は発達しにくいと言われています。

でも、本当なのかなあ、と私は思います。

その理由は、小さいころ勝浦のおばあちゃんに聞いた話があるからです。

 

鉄道好きな子供だった私は、小学生のころにおばあちゃんに尋ねました。

「おばあちゃん、房総東線ができる前は、みんなどうしてたの?」って。

するとおばあちゃんは「汽船だった。」と答えてくれました。

汽船。つまり船ですね。

汽車が勝浦まで開通したときは、勝浦に到着したお客さんは港まで歩いて、そこから汽船に乗って、鵜原、興津、行川、小湊、天津と寄港して鴨川まで行ったということです。

そう、房総半島の外房海岸は海運で栄えたところなんです。東京を中心に房総半島を見ると、交通不便な先端部分ですが、鉄道が開通する前は海運文化でしたから、房総半島というところは上方から人や物が真っ先に到着する入口に当たる場所だったのです。

 

白浜とか勝浦などという名前があるのは、当然和歌山県の文化の流れを継承しているからで、鉄道ができる以前は、舟運が陸運よりもはるかに大量に物を運べる手段でしたから、上方から東北方面へ行く船が房総半島に寄港して、物資を積み込んだり降ろしたりと、実に賑わったところなのです。

いすみ鉄道沿線には5つの酒蔵がありますが、つまり人口の少ない地域にそれだけ酒蔵があるということは、寄港する船に積み込んでお金を稼ぐ手段であったわけで、食べるものもままならない当時、米を食料としてではなく、酒をつくる原料にしていたということは、それだけ豊かな土地だったということで、「長者町」などという地名があるというのは、そういうことを示しているのです。

 

ということは、半島経済などというのは、あくまでも陸上輸送が主流の現代の言葉ということで、結果的に申し上げるとすれば、房総半島は鉄道が開通したことで、それまでの勢いがなくなって、徐々に廃れて行った地域だと言えるのです。

 

という現状は理解した上で、ではどうしたらよいでしょうか、と考えるのが私の仕事でありますから、だったら、鉄道というものを単純に交通機関として考えるのではなくて、全く別の使い方をすることで集客のツールになるのではないか。と考えて実践しているのであります。

そして、今は、そういうことができる時代だということなのです。

 

大きな鉄道会社は鉄道を交通機関として考えて、何とかお客様に乗っていただこうと考えています。

でも、私たちは小さな鉄道会社ですから、純粋な交通機関としてはなかなかお客様に乗っていただけません。

だったら、考え方を変えて、使い方を変えて、鉄道が地域にお客様を呼ぶツールになれば、半島経済などと中央の人間に悪口を言われても、そんなことはお構いなしに、十分やって行かれるのではないでしょうか。

 

そんな風に考えると、房総半島というところは可能性の宝庫に見えてくるから不思議ですね。

 

だって、田んぼの中の無人駅や山の中の終着駅が観光地になって、廃屋のようだった神社が聖地になるんですから。

 

私は、やっぱり、房総半島の可能性を信じたいと思います。

 

ただし、可能性があるのは房総半島という土地であって、そこに住んでいる人たちに可能性があるかどうかはわかりません。

私はすでに9年目ですが、いまだに様子見の人たちも多くいますし、空き家になった駅舎を2年も3年も何もしないで放っておくような人たちには、可能性があるとは到底思えませんから。

このところ、私は、過去百年の房総半島の歴史を振り返りながら、そういう人たちの住む地域に、これ以上自分の人生の残りの時間を費やすことが得策なのかどうか、見極めようと考えているのです。

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