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旅行の歴史 4

 2017.06.03 Saturday 

昭和39年の海外渡航自由化で外国旅行が解禁された日本人は、最初の頃こそなかなか自由に海外など行かれませんでしたが、15年ぐらいたった昭和50年代半ばにもなると、大人たちはもとより、学生がバックパックを背負ってヨーロッパやアメリカに放浪の旅に出る時代になりました。

 

そういう時代が来るということは、同時に日本人の生活も向上していったわけで、長屋のようなアパートの一室に家族みんなで生活していた人たちが、夢のマイホームを手に入れて郊外の一戸建てやマンションに移り住んでいきました。そうなると、非日常体験を求める旅行に対する考え方も変わってきて、昭和30年代に建てられた国民宿舎のような施設は陳腐化が目立つようになってきましたし、民宿で雑魚寝などというのは「ありえない」ものになって行きました。つまり、自分たちの日常が向上した分、旅行の行先や泊まる場所には、より素晴らしいものを求めて行ったのです。

当時もてはやされたのがホテルの個室で、鍵がかかるし、専用のトイレとお風呂が付いている。今思えば「そんなの当り前」ですが、それまでの旅館や民宿の安普請で隙間風が入るようなところから比べれば雲泥の差で、ましてクーラーはついているし、ベッドで寝られるのですから、30年ぐらい前ですが、うちの子供たちも旅先のホテルの部屋のベッドで飛び跳ねて大喜びしていました。

 

「できるだけ遠くへ行って、できるだけ高級なホテルに泊まって、できるだけ上等な食事をする。」

 

日本人にとって旅行というものがこういうものだった時代です。

房総半島のような、近くて、安くて、下手をすれば自分たちの日常よりもレベルが落ちるような宿泊施設で、おばちゃんの手料理のような食事をするところは、急速に旅行の目的地から淘汰されていったのです。

 

さて、このように日本の観光地がどんどん設備投資をして、旅館やホテルが生活の向上に合わせるかのように高級化していきましたが、それでも日本人は国内の観光地よりも、外国旅行や、同じ国内でもできるだけ遠い沖縄や北海道を目指すようになりましたので、都市近郊の1泊2日で行くような観光地からは徐々に観光客の姿が減って行きました。

そして、その時にやってきたのが、いわゆる「バブルの崩壊」というやつで、土地の値段が高騰するのを政府が一気に抑え込んだために、日本経済の裏付けとされていた資産価値が急激に目減りして、株価が急落し、大不況がやってきました。

当然、消費需要も一気に落ち込んで、不要不急の観光旅行などというものも完全に落ち込んでしまいました。

それまで、一生懸命設備投資をしてきた、例えば伊豆や熱海や箱根や鬼怒川のような近場の温泉観光地は大打撃を受けて、多くのホテルが倒産したり外資に身売りをしたりということが起きたのです。

 

ところが、そういう時代にほとんど無傷で被害を免れたのが房総半島で、ゴルフ場などバブルを象徴するような金持ち相手の開発ビジネスは大きな打撃を受けたものの、海水浴客を相手にするような観光ビジネスはほとんど打撃を受けなかったのです。

その理由は、それまでにすでに観光客が来なくなり、不況の波に見舞われていたことと、それによって大きな設備投資をすることなく、つまりは「何もしてこなかったから。」なんです。

 

こうして30年近くが経過しました。

 

今、何もしてこなかった房総半島の観光地は、一言でいえば「昭和が残っている」状態のままでいるわけで、私はここに「価値」があって「可能性がある」と考えています。

その理由は人間が変わったからです。

 

30年経つということは人間が入れ替わるのです。

当時の高度経済成長とバブルを経験した世代はすでにリタイアして主役の座を退いています。そして、今、主役の座にいる人たちは、バブル崩壊後の失われた20年を生きてきた人たちで、バブル崩壊当時小学生だった人たちが30代以降になっていて、世の中の主役になっているのです。

どういうところへ旅行に行こうか。何を目的に旅行へ行こうかという意思決定要因も、高度経済成長当時の日本人とは違っています。

当時の日本人が、「できるだけ遠くへ行って、できるだけ高級ホテルに泊まって、できるだけ上等の食事をする。」ということが旅行の目的だったのに対し、今の人たちは、「非日常体験をすること」が旅行の目的になっているわけで、昭和40年代から見たら生活が飛躍的に向上し、冷暖房完備で完全個人主義の都会で生活している人たちにとって見たら、別に高層ホテルに泊まることが特別なことでもなく、レストランで食事をすることが非日常体験ではありません。

飛行機に乗って遠くへ行くなんてことも当たり前で、つまりは、「飛行機に乗って遠くへ行って、高級ホテルに泊まって、レストランで食事をする。」ことは、非日常体験でもなければ憧れでもない時代になっているのです。

 

だから、日帰りできるような近場で、できるだけ設備投資されていない昔ながらのところで、いつもと違う田舎体験でもできれば、ましてお金をかけずにそういうことができれば、都会人にとって見たら立派な観光旅行になるわけで、そういうことを前提に考えたら房総半島というところは実にポイントが高く、可能性の宝庫だとみることができるのです。

 

つまり、私がいすみ鉄道で観光ビジネスが展開できると考えて観光列車を走らせているのはこういうことでありまして、だから、オンボロのディーゼルカーで昭和を演出するだけで、田んぼの真ん中の無人駅にたくさんの人が訪れるという考えられないような光景が実際に展開するわけで、別に特別なことでもなんでもないのです。

だとすれば、日本の田舎にはどこにでも可能性があるわけで、ローカル線があればわかり易いですから、ローカル線をツールとして上手に使うことさえできれば、衰退が止められなかった地域が、特に設備投資をすることなく、ありのままの姿を上手に演出することさえできれば、日本は田舎から元気になると考えています。

 

ただし、ここに一つだけ注意しなければならないことがあります。それは、その地域がなぜ今のような状態になっているか。発展している地域が発展している理由も、廃れている地域が廃れている理由も、すべては長年その地域に住んできた人たちが招いた結果であるということなのです。だから、一言でいえば、その人たちに現状を変える力がないというのも事実で、でも、田舎ではそういう長年にわたってその地域が今ある姿になった原因となった人たちがいまだに主役の座にいらっしゃるということも事実なのです。

 

だから、田んぼの真ん中がなぜ観光地になるのか、などということは理解できませんし、そもそも「できるだけ遠くへ行って、できるだけ高級ホテルに泊まって、できるだけ上等の食事をする」ことが旅行だと考えている世代の人たちですから、いま目の前にいるお客様の購買動機や顧客心理が理解できないのです。

まして、海水浴客の減少の際に「何も設備投資しなかった」ために、バブルの崩壊の際の被害を免れた経験がありますから、当然のように、今の時代でも「何もしない」ことを選択する。いや、「何か行動する」ということを選択しない人たちが多いのも全国の田舎の共通点です。

でも、これからの時代は人口が減っていく時代ですから、何もしないでいたらさらに衰退が進むことだけは確実です。ところが、大きな設備投資をするようなお金などありませんから、何かしようと思ってもどうにもならない。これが田舎の八方ふさがり状態と言われているのですが、いすみ鉄道でやっていることをご覧いただければ、大きな設備投資をすることなく、ありのままの姿であっても、きちんとしたおもてなしさえできれば、都会ではすぐに話題になって、あっという間にお客様にいらしていただけることは事実ですから、そういうことを上手にできるようになれば、どんな田舎も観光地になることができるはずで、それが、観光でいらっしゃるお客様の目的が、30年前から見たら大きく変わっているからなのです。

 

では、田舎の人たちがどうやったらお金をかけずに都会からの観光客を招くことができるか。

それにはまず、都会の人たちが何を求めているかということを理解しなければなりません。

今までの田舎のやり方は、「自分たちにはこれがある。」「この地域の特産品はこれだ。」ということで、自分たちにできることを一生懸命やるばかりでした。これではなかなか結果が出ないということは十分学習していると思いますが、なぜ結果が出ないかといえば、その理由はただ一つ。「都会の人がこの地域に何を求めているのか。」という観点が欠如しているからです。

つまり顧客心理を理解せず、自分たちのセールスばかりしているのです。

まずこの部分を理解すること。そうすれば観光客はやってきます。

そして、実際にやってきたら、次にやらなければならないのは、観光客のお財布の中の1万円札をどうしたらこちらのお財布の中へ移動させることができるか。つまり、お金を使っていただくことなのですが、これにはノウハウが必要です。

ビジネスですから当然ノウハウが必要で、ノウハウのない人が商売をやっても必ず失敗します。

ということはノウハウが無ければ、ノウハウを持ったプロフェッショナルに来ていただいて、教えていただくしかないのです。

これが、いわゆる「よそもの」です。

 

たったこの2つをきちんと継続的にできるシステムを作れば、日本の田舎は全国どこでも観光地になれる時代なんです。

 

自分たちは何もしない。若者の言うことは否定する。よそ者は排除する。でもお金は欲しい。だから適当にイベント開催して補助金の奪い合いで結局は食いつぶして終わり。

こういう地域には、未来はないということは確実なのです。

なぜなら観光というのは産業ですから、きちんとしたマーケティングと適切な戦略が必要だからです。

 

でも、今の時代は、旅行へ行きたいという動機も目的も大きく変化しましたから、今まで観光地になれなかった地域にもチャンスはたくさん落ちている。

そして、それを拾える地域か、それとも埋もれたままにする地域かは、全国が注目している時代になりました。

チャンスがある分、責任も問われるというのも、現代の田舎の観光なのだと私は考えています。

 

さあ、皆様の地域をできるだけお金をかけないで全国区にして、観光客がやってきて、特産品が売れて、地元の経済が回るきっかけを作れるとしたら、すぐに始めた方が良いですよね。

お手伝いしますよ。

私はいすみ鉄道の社長ですから直接は動けませんが、私の周りには田舎で始められるビジネスのノウハウを持ったプロフェッショナルがたくさんいますから。

例えば、駅弁売りのプロフェッショナルもいますしね。

覚悟ができている地域でしたら、いくらでもお手伝いさせていただきます。

ただし、覚悟ができていることが前提になりますから。

 

これからは、私たちが「旅行の歴史」を作っていく時代なのです。

 

(おわり)

 

 

 

 

 

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