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公募社長総括 10  ローカル線のブランド化

 2018.06.10 Sunday 

今からちょうど9年前の2009年6月にいすみ鉄道社長に就任した私は、沿線を見て回って「ここにはお金が落ちているなあ。」と思いました。

もちろん本物のお金が落ちているわけではなくて、お金というのはビジネスの種のことで、田舎の景色や線路にたくさん落ちているビジネスの種を、まず発見して、上手に育てれば、大きくなるだろうということです。

なぜなら、私はローカル線というのはブランド化に適していると考えていたからで、私が航空会社を辞めてまでいすみ鉄道の社長に就任したのは、ローカル線がブランド化できるということを実証してみたかったからなんです。

 

前にも申し上げましたが、ローカル線というのはいろいろな地域的条件がありますので、全部まとめてひと言で「ローカル線」と言えるものではありません。その地域的条件の一番大きなものは人口で、例えば吉田千秋社長さんが奮闘されていらっしゃる茨城県のひたちなか海浜鉄道は、ひたちなか市の人口が15万人、お隣の水戸市の人口は27万人ですから、いわゆる地域の足としての役割をきちんと追求していけばある程度の経営は成り立ちます。その証拠に、吉田社長さんの奮闘の甲斐あって、ひたちなか海浜鉄道は今、路線を延長するというローカル線としては画期的な計画が進んでいます。ところが、いすみ鉄道沿線はいすみ市と大多喜町を合わせても5万人いませんから、同じローカル線といっても、同じ方法では立ち行かないというのが地域的条件になるのです。

 

そこで私は、いすみ鉄道のような沿線人口が少なく、利用者増が見込めないローカル線でも、ブランド化できれば、別の意味でローカル線は存続していかれるのではないかと考えました。人口がいない地域にはローカル線は存続できないと定義づけることは、あまりにも短絡的で、昭和の国鉄末期から40年近くそのやり方でやってきて、その結果として地域までダメになって来ているのが現在の日本ですから、私は全く別の角度から考える必要があると思ったのです。


▲2009年7月1日。誰も乗らないいすみ鉄道。

「ここにはお金が落ちています。」という社長を、きっと皆さんバカだと思っていたのでしょうね。(笑)

 

では、その、まったく別の角度とは何かというと、ローカル線の商品特性を追及するということです。

 

誰も乗らない=お客様がいない

列車本数が少ない=不便で利用しづらい

 

いままではこのように考えられてきていて、まるでデフレスパイラルのように抜け出せなくなっていたのですが、当時の私はローカル線の商品特性を次の3つに絞って考えました。

 

1:列車本数が少なく、編成両数も少ない。→→→ 商品供給量が少ない。

2:都会の人にとっては、わざわざ乗りに来なければならない。 →→→ 買回り品である。

3:今日の列車を明日売ることができない。 →→→ 供給の保存ができない。

 

具体的に説明します。

1は、例えば1時間に1本、1両の列車が走っているとすれば、座れる人数はせいぜい40人か50人です。航空会社に勤務していたときに「座席というのは商品である。」と教育を受けた私としては、ローカル線の列車の座席だって当然商品であると考えます。だから、1時間に1本、50人座れる列車が走っているということは、簡単に考えると1時間当たりの商品供給量が最大でも50個だということです。百貨店の地下で、焼き立てバームクーヘンに行列ができています。あれはなぜ行列ができるかというと、その場所で焼いている個数が限られているからです。1時間に50個しか焼けないバームクーヘンであれば、50番目のお客様は1時間待たなければならないということです。ローカル線というのもまったく同じで、座席を商品として考えるのであれば、商品供給力が少ないわけですから、これは都会の電車とは商品価値が大きく違うのです。

 

2は、商品というものは大きく2つに分けられて、1つは日用品、もう1つは買回り品になります。

日用品というのは皆さん毎日買われる生鮮食品や生活必需品です。人間の生活にはとても重要で、なくてはならないものです。

これに対して、買回り品というのは趣味のものであったり、耐久消費財など、何年かに一度購入するような商品です。日用品はできるだけ近場で購入する傾向があるのに対して、買回り品というのは、わざわざそこまで出かけて行って購入するという傾向があります。私の知り合いで、鉄道模型が趣味の人がいますが、わざわざ遠くまで出かけて行って、そのお店で買っています。つまり、そういうその人にとってプレミアム感がある商品が買回り品です。そして、ローカル線というのは、都会人にとっては隣近所では買えませんし、お取り寄せもできません。「わざわざ乗りに来なくてはならない。」という商品特性がありますから、これは買回り品なんですね。

 

3の供給の保存というのは、ちょっと難しい言い方になりますが、簡単に言えば在庫を持てないということです。たいていの商品は、売り上げを予測して、ある程度在庫を持って多客期に備えることができます。また、今日売れ残った商品でも、在庫として取っておいて、明日また販売することができるものも多くあります。ところが、ローカル線の座席を一つの商品として考えた場合、今日空席だった座席を、明日販売しましょうということはできません。つまり、売れ残りを在庫として持っておいて翌日販売することができないんです。これが供給の保存ができない商品であるということです。

 

私は、ローカル線を商品として考えた場合、これら3つの商品特性があると判断しましたから、ローカル線というのはブランド化に適していると考えたのです。

だって、商品数が少なくて、わざわざ買いに来なくてはならなくて、その時じゃなければ買えないのですから、これはまさしくブランド品でしょう。

そして、私はこの自分の仮説を、自分の人生をかけて実証して見たかったのです。

 

なぜなら、これ以上日本のローカル線がなくなってほしくなかったからなんです。

 

では、ブランド化するとどういうことが起きるかというと、一番の特徴はクレームが発生しなくなるんです。

日用品のような毎日使う生活必需品というのは、基本的に価格の競争になります。スーパーマーケットなどは1円でも安ければ皆さんそちらのお店に行ってしまいます。そういう厳しい価格競争にさらされているお店というのは、当然買い手市場になりますからお客様の方が決定権を持っています。お客様の方が決定権を持っているということは、クレームが発生しやすくなるんです。

「ちょっと、何よこれ。」

商品にちょっとでも不具合があると、お客の態度が豹変するようなことが起きるのです。

 

ところが、ブランド化するということは、お客様がわざわざ買いにくるような商品になりますから、簡単に言うとお客様はそのお店のファンになってくれて、そのお店の商品のファンであるわけですから、そういう人は、多少のことがあっても優しい目で見てくれます。

例えば、巣鴨のお地蔵さんの通りで売っている3000円ぐらいの安物のハンドバッグと、専門店でしか買えない30万円のシャネルのハンドバッグ。

この2つのハンドバッグの違いはなんでしょうか?

 

ハンドバッグというのは、中に小物を入れて持って歩くためのカバンですから、3000円であろうが30万円であろうが、機能としての差はないんです。では、何が違うのかというと、「持ってる人の気持ち」が違うんです。

だから、3000円のハンドバッグを買って、1週間で壊れたら、お店にクレームに行きます。

「ちょっと、このあいだ買ったんだけど、もう壊れたわ。安物はダメねえ。」ってね。

安物を買ったのはお客さんじゃないですか。

お店の人はそう言いたいけれど、そんなこと言ったら火に油を注いでしまいます。

ところが、30万円のシャネルを買って、すぐに壊れたらどうなると思いますか。

これ、実際に前の会社の同僚がそういう経験したのですが、その時彼女はこう言いました。

「あらやだ、シャネルでも壊れるのね。」

 

もちろんきちんと修理はしてもらっていましたが、ブランドというのは一つの信仰であり、ファンビジネスですから、ブランド化するということは、クレームが出なくなるのです。

 

さて、では当時のいすみ鉄道の状況はどうであったのかというと、ローカル線のお客様はブランド品を購入するお客様とは程遠い客層でした。

いすみ鉄道が廃止の瀬戸際にあるというニュースを聞いてやってくる人たちの中には、「社長、廃止になりそうなんだって? 乗りに来てやったよ。」とか、「このあいだ大原まで乗ってやったよ。」というような人たちばかりでした。

大原まで500円の運賃を払って乗っていただければ、そりゃあお客様ですが、500円の商品を買っていただくのはよしとして、「このあいだ、お前の所で500円買ってやったよ。」といわれるような商売だったんです。

例えばラーメン屋さんで500円のラーメンを食べたお客さんが、2週間後にその店の主人に、「このあいだ、お前のところで食べてやったよ。」と言われるのと同じです。

一生懸命頑張って、安全正確にきちんと列車を走らせている鉄道会社の職員が、そういう評価しかされていませんでした。

 

ローカル線はどこでも駅の窓口の横の方で、菓子類やいろいろなグッズなどを販売しています。「廃止になりそうだから乗りに来てやったよ。」とか「このあいだ乗ってやったよ。」というようなお客が、そういう商品を見て、「へ〜、増収のためにこんなもの売ってるんだ。じゃあ、かわいそうだから1つ買ってやるよ。」と言って買っていく。それをうちのスタッフがおべっか使いながら「ありがとうございます。よろしくお願いします。」と頭を下げているわけですから、これじゃあプライドも何もありません。

 

中には一生懸命頑張ってくれている応援団の人に向かって怒っている人がいて、黄色いポロシャツを着た応援団の人たちが、「すいません。」と謝っている光景も見られました。

だいたい都会の人間というのは田舎に来ると上から目線の人が多いもので、そういう上から目線の人たちが、頑張っている田舎の人たちに向かって心無い言葉を発し、あるいは怒っている光景というのは、私には許しがたいことでした。

きちんとした仕事をしていたり、一生懸命地域活動をしている人たちが、正当に評価されない。

こういうことは、私にとっては許してはならないことだったのです。

 

ある時、駅で応援団の人に向かって怒っている観光客がいたので、私は気になったので何を怒っているか聞いてみたのです。そうしたらその観光客は、「せっかく来たのに何もないじゃないか。」と言っていたのです。そして、応援団の人は、「すみません。ここは観光地でもなんでもなくて、田んぼの中の無人駅ですから。」と言って謝っていたんです。

 

だから、私は、応援団の人たちに向かって、「そんなことを言われたぐらいで頭を下げる必要などない。」と言って、このポスターを作ったんです。そして、列車の中や駅構内に貼りました。

 

 

皆様ご存じの、いすみ鉄道のオリジナルキャッチコピー、『ここには「なにもない」があります。』のポスターです。

 

 

さて、このポスターを作ってから、いすみ鉄道はまた面白い方向に進んでいったのでありますが、ここから、いすみ鉄道はどうなって行ったかは、明日、≪最終回≫でお話しさせていただきます。

 

どうぞご期待ください。

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